東京・世田谷と米国オレゴン州ポートランドの交流推進を目指す世田谷ポートランド都市文化交流協会準備会[1]*は2017年10月12日、明治大学和泉図書館ホールにて、ポートランド市振興局エグゼクティブ・ディレクターのキンバリー・プランナム氏を迎えたトークイベントを開催しました。短い準備期間ではありましたが、当日は50名を超える参加者の方にお集まりいただき、質疑応答では活発な意見交換が行われました。当日のレポートをお送りします。
第1部では、キンバリー氏からポートランド市そしてポートランド市振興局の取り組みについてレクチャーを受けました。
ポートランド市は、オレゴン州に位置する人口64万人の都市で、州の北西部に位置しており、地元の「ナイキ」のほかにも、「アンダーアーマー」「アディダス」などがポートランドに北米本社の拠点を構えています。全米で、最も清潔で、最も緑の多い都市のTOP5に入っており、2千万平米のフォレストパーク、コロンビア川、マウントフッドなどが都市の内外に広がっています。700台以上のフードトラックや、60以上のブルーワリーも存在しており、全米において「食」に関しても注目を集めています。また、経済面では、2009年の経済後退から最も回復を遂げた都市として1位にランクし、シリコンバレーに次ぐ起業家や発明を輩出する都市であり、これらは非常に教養があり有名大学出身の若者たちがポートランドを好み移住してきていることが理由といえるとのこと。キンバリー氏からは、「世田谷においても同様の環境が揃っており、両者が共有できることが多い。」としたうえで、日本との関わりについて「140以上の日本企業がオフィスを構え、10,000人以上の雇用創出に貢献しているなど、経済的にも文化的にも非常に関わりが深い国である」と言及しました。
次に、ポートランド市振興局「Prosper Portland」について紹介がありました。「Prosper Portland」は4つの主要産業(ソフトウェア・アウトドア/アスレチック・クリーンテクノロジー・先進技術を用いた製造業)に注力し経済開発を推進しているポートランド市振興局で、雇用環境の改善に関するプログラムの企画や、先端技術・イノベーションの推進に努め、ポートランド市を世界的に競争力があり、健全で公平な都市にしていくことを目的としています。
キンバリー氏は、ポートランドが直面する社会問題についても言及され、「移住人口増加による住宅価格の高騰や、交通渋滞などの課題は、世田谷区そして東京都とも共通しているのではないか」と問題提起がありました。具体的な事例として経済格差、女性の技術分野への進出低迷、経済成長を実感している市民の割合が低いなどがあり、ポートランド市がどのように課題に取り組んでいるかの説明がありました。その一つとして税制優遇エリアを決め、企業やコミュニティの投資を高めていくことを目的とした「Urban Renewal Area(都市再生地区)」という戦略的ツールの紹介があります。一例として、「Pearl District(パール地区)」ありますが、当初工業団地であったパール地区が都市再生地区に選定されたことで、多くのレストランやショップが並ぶ魅力的で健全な地区へと再生され、このような魅力のある地区には誰でもアクセスできるようにするべき、というポリシーのもと、地区内に存在するアパートの30%は低所得者層の方も住むことができるようになっているとのことです。
最後に、ポートランドに存在する企業が、環境に配慮した建物やウォーターフロントの構築、持続可能なエネルギー、資金調達の分野について日本とも関わりを持ち始めていることも紹介がありました。都市計画分野においてこのような連携が継続していくことを望んでいるとの考えを示されました。
第2部では、キンバリー氏の発表を受けて世田谷区長の保坂展人氏から、世田谷とポートランドの関係や世田谷区が直面する課題についてお話がありました。保坂氏は、2015年にポートランド市を初訪問し、自然豊かな環境に恵まれ、古い歴史的建物を尊重し、市民が自らムーブメントを起こしていく姿に感銘を受け、何度か視察に行っています。昨年は、ポートランド州立大学でも市民参加をテーマに講演を行なわれました。世田谷区の取り組みとして、高齢者福祉、子ども子育て支援、若者支援・LGBT人権擁護などを紹介されましたが、ポートランド市民の反響・関心の大きさから、両者で課題を共有し解決するために協力できるのではないかとの考えを示されました。「世田谷区に限らず多くの関係者がポートランドをテーマにしたイベントに集まる共通の関心ごとは、ポートランドが全米一の環境都趾のみならず、持続可能な都市、市民が信頼しあっている都市であり、それをつくりだす根底のまちづくり哲学にあるのではないか」と持論を示し、それを相互に学んでいくことで国や制度、都市を超えた価値形成をしていきたい、と述べました。
第3部では、明治大学副学長の小林正美氏がモデレーターをつとめ、キンバリー氏、保坂区長とのパネルディスカッションで両氏へ様々な切り口から質問をされました。
「リバブルシティ」「グリーンシティ」をどのように作るか、というテーマに対して、キンバリー氏は、3つの考えを示し、一つ目は、再開発をする際のインフラに焦点をあてがちだが、コミュニティに焦点をあてることの大切さ。再開発を行った時に、コミュニティにどのような影響があるかを第一に考えるべきという意見。二つ目は、再開発が早すぎるとコミュニティが保たれないため、開発のペースはゆるやかに行うという方針。三つ目は、民的・公的にアフォーダブルなものをつくるための政策・ポリシーを作っていくことの大切さについて述べました。
また、豊かな自然があることから環境に対する住民の意識はもともと高い、とした上で、ゼネコンやディベロッパーもクライアントの環境に対する意識が高いため、環境に配慮した建物を建てることに理解があるのだろう、と述べられました。
保坂氏は、下北沢再開発を例に出し、道路や駅前広場、線路跡地を都市的な魅力を発信できる空間にしていくための、区民参加の話し合いは住民が当事者になるために必要であり、ポートランド市のネイバーフッドの取り組みについても世田谷区が学びたいところである、と意見を述べ、「グリーンシティ」に関しては、世田谷が取り組む植樹の取り組みについても言及されました。
また、保坂氏は、「ポートランドの若者たちが独立・起業しユニークなアイディアやテクノロジーを創出していくような若者の積極性・意欲ある挑戦は日本よりも目立つ」との考えを示し、キンバリー氏からは、営利目的ではなく、コミュニティの課題を解決したいという取り組みが増えており、振興局として若手起業家とベテラン起業家と交流をもつ機会を企画し、銀行から融資をうけるサポートをしている、とコメントがありました。
経済格差について、キンバリー氏は、都市再生された場所は、富裕層しか恩恵が受けられないと考えられがちだが、中心部から離れたところも再生の対象とすることで、中所得層や低所得層、移民が多いコミュニティと協力することが重要と述べられ、優遇税制や低家賃のスキームにより、地元企業には開発するエリアにとどまってもらうことが重要である、との意見も示されました。
最後に、キンバリー氏からは、「日本で起こっていることにも注意深く関心をもってみている。両者のベストプラクティス共有により、交流をつなげていきたい。」との意向を示され、イベントは終了しました。世田谷ポートランド都市文化交流協会準備会では、今後も各テーマに沿ったイベントを企画してまいりますので、ぜひ今後もフォローいただけると幸いです。
世田谷ポートランド都市文化交流協会準備会 事務局一同
[1]* 世田谷ポートランド都市文化交流協会準備会:ポートランドの魅力に魅せられ、ポートランドが培ってきた独自の都市文化を基軸にした日米の交流をより一層深めようと集まった有志の団体。産官学民連携により、世田谷とポートランド両者が相互に学びあうことで、都市の価値を高めていくことを目的としている。